優れた素材、確かなデータ
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
森林技術センターは、県内大淀町で木質建材を製造・販売している(株)ホーテックと共同で、表層の硬さを高め、傷が付きにくいスギ床材を開発しました。既に(株) ホーテックが「吉野スギハードフローリング」という商標で製造販売を行っており、後述のとおり、施工例も増えてきました。
戦後間もなく植栽され、豊富な資源量があるスギ人工林木の有効利用というのが当センターの使命であり、その一環としての研究開発であったというのは事実ですが、私達にはスギ材を床材料として使いたいという強い想いがあったのです。
スギ材は断熱性に優れた素材
飼育カゴに木材を使うと、マウスの健康が増進されることはこれまでの実験で実証されています。それには、木材の香りや調湿機能なども寄与していると思われますが、それ以上に木材が持っている断熱性が良い影響を及ぼしていると言ってよいでしょう。ところで、木材の断熱性はどのようにして発現するのでしょうか。写真1はスギ材の電子顕微鏡写真です。この写真からも分かるとおり、木材は中空のパイプ状の細胞の集まりで、スギ材の場合、体積の80%近くが空隙で、その中に空気を閉じ込めているため、断熱性が高くなっているのです。ちなみに、一般に床材として使われているナラ材などの硬い広葉樹では空隙率は60%くらいしかありません。空隙率が高いスギ材は、木材の中でも断熱性が高く、内装材として最も適した材料と言えます。 一方で、空隙率が高い木材は軟らかく、傷がつきやすいのが最大の欠点で、これまで一般には床材としては使われてきませんでした。
スギ材を硬くするための研究開発
木材を硬くする方法はいくつか考えられます。かつては空隙にプラスチックの原料を注入して、木材中で固める手法がよく使われていました(Wood Plastic Composite の頭文字を取ってWPCと呼ばれています)。しかし、WPC化では空隙をなくすことになり、スギ材が持っている断熱性を損なってしまいます。また、全体を圧縮する方法も既存技術としてありましたが、同様のことが懸念されます。
そこで、私達は写真2にあるようなロールプレスを用いて表層付近のみを押し潰し、その上に特殊なウレタン樹脂をコーティングすることで、断熱性の低下を最小限に抑えつつ、スギ表層を極めて硬く、傷つきにくくすることに成功しました(図1)。
公共・民間問わない広い需要
スギ等、地元産材を使うことは、当県だけではなく、全国どの自治体でも使命となっており、何らかの方法で硬さを改善したスギ床材が公共事業で使われている事例は増えています。しかしその一方で、民間需要は伸びていないと思います。それは、見栄えやコストが課題であったと推察しています。今般、私達が開発した技術は、公共事業(写真3)だけではなく、私立大学(写真4)、県内で住宅開発を手掛ける近鉄不動産の物件(写真5と6)や、個人住宅(写真7)にも広く使われています。断熱性等のスギ本来の性能や素材感が維持されていることが評価されたものと考えています。