「奈良の木」が住まいになるまで
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
【矢島】
僕達工務店は製材されたものを買うので、柱一本、板一枚という単位では想像できるのですが、一本の原木がどう動いているのかがわからなくて。それが奈良の中でうまく活性化して、山や市場にも還っているのかというと僕達もよくわかってない。材木屋さんがアピールしてこなかったからか、実は未だに、「奈良の木」の柱はどこで手に入るのか知らない工務店もあって。「奈良の木」のフローリング材が使いたいと言って、実際買っているところってどこかの商社だったりするからすごいアンバランスですよね。流通としての整理ができていけば、これから需要は増えてくるはず。
【本誌】
多くの人が関わって、それぞれの頑張りを経ている「奈良の木」なのに、消費者からすると生産側のつながりってなかなか見えないですよね。そういうところがスムーズになっていくと、もっと良いのに。
【矢島】
十津川村森林組合からいわれたのはお客さんの顔が見えないってことでした。木を直接売るのは市場や製材所だったから、お客さんどころか工務店にも会うことがない。でも、工務店が企画する森林ツアーでお客さんが山を見ているというのは山としても良かったみたいで、建築された家に興味を持って見に来てくれたりもしました。山も市場も製材も流通も工務店もひっくるめて、奈良県全体でそういう取り組みができればいいな。うちは小さな工務店ですが、他の工務店さんと意見を交換したりしたい。今聞いた山側の苦労を知らないまま、工務店は製材された木を使っていたから。
【谷畑】
木を加工しているのは見るけれど、実際に手をかけて木を育てるところはなか見ないですもんね。
【矢島】
山の話を工務店も知った上で、そこにある想いというか、100年育てるってこういうことなんだと感じながらやっていきたい。そういう部分をこの交流の中でできたらいいなと思う。
【本誌】
阪口さんのように中間でいろんな人の声を聞ける立場では、どんな風にやっていけば奈良の木は盛り上がっていくと思われますか?
【阪口】
僕は製材所に徹しているつもりではあるのですが、製材所としてモデルハウスを作りました。設計事務所や個人の工務店ではモデルハウスを持てないところも多いし負担も大きい。じゃあ、うちがその負担をすれば木を使ってもらえるかなと思って(笑)。当時はよく親父(現社長)が納得してくれたなと思いますけど、そこから広がることができたから、親父には感謝してます。それぞれの立ち位置でお付き合いのあるところに仕事を渡せたら木も出るし、近いからこそ材料も直接運べる。顔が見えるところに、安心して紹介できる先をつなげていくことです。なんだかんだいっても今の時代だからこそ義理人情って復活やなと思ってて。それが、「奈良の木」を復活させる第一歩!
【矢島】
僕が知りたいのは、いくらで売ったら山にちょっとでもお金が還るのかというところ。今はいろんな補助金があるからそれをうまく利用すると、お客さんにも工務店にもプラスになるのに、「奈良の木」は高いと勝手に決めつけて、使っていない工務店が結構いると思う。出口である僕たちがきちんと理解して進めないと需要と供給と金額のバランスを保てなくなりますよね。お客さんの中には「奈良の木」を使いたいと思ってくれている方もいるんだから。
【阪口】
僕がもしも工務店や流通の営業マンだとしたら、「奈良の木」を安売りはしたくないな。価格ありきになると、山や市場、製材所の声って値段でばさっとかき消されてしまう。少なくとも今まで付加価値をつけてやってきた林業なので、適正価格を見込みたい。奈良木建さんのプレカット機械があれば今まで大工しかできなかった加工も費用がおさえられる、工務店さんなら木の使いどころをうまく考えたり補助金をうまく使うことで費用がおさえられる。その分、奈良のいい木が使えますよ、と。そういう営業をやってもらえたら、「奈良の木」の価値を落とさずに普及していけると思う。
【谷畑】
せっかく奈良県で商品を作るなら「奈良の木」を使ってみてはと提案はするものの、なかなか相手にピンと来てもらってないんですよ。奈良県地域認証材で合板を作っていますが、なかなか出なくて。山から出るのは、見た目が綺麗な木だけではないですよね?
【森田】
架線集材だとその辺りの材も出るのですが、ヘリ集材ではいい材だけ下ろすので見た目の良い木が主になりますね。長い木を伐っても、ヘリで下ろすのは短く切った一部だけ。八割がた山に置いていきます。
【阪口】
山の人は、合板を作るために山作りをしてきたのではないんですよね。本当は木を循環していきたいけど、いい材を出してきた分が食われちゃうから、なかなかおかしな話。
【矢島】
そこのギャップでしょうね。僕らにしたら、1本の木全てを元から先まで使えたらいいなと思ってる。いいところは良い値で売って、安い部分も安くても売れるようにっていう方が1本の木をフルに使えると思うのですが。
【吉野】
実際は架線集材なら樹齢70〜80年の木は持ってこれますが、ヘリならそのぐらいの年月の木は切り捨てですもんね。1本も出てこない。
【矢島】
実はその辺りの年月の木が工務店側としては一番欲しいところでもあるんですけどね。
【谷畑】
まさに売れ筋ですよね(笑)
【一同】
笑
【阪口】
・・・いつのころから木の値段が下がったんでしょう。残念で仕方ないんですよ。いい値で売れないと今育ててる木の枝打ちをする費用もなくなるでしょ。今まではそれでも山は揺るがず自分らの仕事やってこれてた。でもやっぱり今、ぐっと腰を上げて苦労しないといけない時じゃないかな。それが林道なのか架線なのかわからないけど。「しんどいなー」というだけでは何も進まないし。
【矢島】
十津川村では、黒芯とかハチクイ材(虫喰い)も始めは売れないと思っていたみたいで。でも、家の構造材とか見えない部分に使っていける材料でしょ。化粧材は綺麗な方がいいけど、構造材は見た目よりも強さがあればいいという材。今まで使われていなかった材が使えるってことはお客さんにも響く。
【阪口】
構造材まで無理に見た目のいい木を使うと単に高くなるだけ。端材も余らせずに木を一本使い切っていると言えると説得力があるし、うちは「一棟丸ごと吉野の木を使おうよ」というのをやってます。
【矢島】
そういう話はお客さんにきちんと伝えておくことで、クレームにもならない。木自体が割れたり反ったりするっていうのも当たり前ですし、自分でメンテナンスしながら使ってくれます。意思の疎通というか、コミュニケーション次第ですよね。
【阪口】
工務店側が思う木の家と、山側が思う木の家ってイメージが違うのかも。
【吉野】
阪口さんのモデルハウス、見せて頂きましたが、もっとふんだんに木が見えてるものかと思ってました。
【森田】
座敷があって土壁があってという、昔ながらの木の家の需要はあまりないのかな?
【矢島】
柱をしっかりと見せる伝統的な真壁というのは少ないです。お客さんが望むことはあまりないですね。
【阪口】
旦那衆だけが家を建てられた時代から、今はみんな家を立てることが可能になってきましたが、今の人はもう少し簡素にならないかなと思っているんじゃないのかな。
【森田】
農家の人も?
【矢島】
農家でも世代交代があって40代から60代であっても、いかにもっていう昔ながらの家は求めないですね。意識してないというか。家のことで希望を言うのは奥さんかな。
【森田】
うちもそうですね。奥さんが一番強い(笑)。
【矢島】
外観は和風を希望されるけど、内部は使い勝手良く。旧村でもそうですね。でもやはり一部屋は和室にしたいといわれるし、そこにはいい木は使いたいとおっしゃる。家のボリュームからすると、小さなスペースではありますけど。そういう意味では今の人は、昔の造りの木の家にはあまり需要をみていないかもしれない。
【阪口】
なのに実際には世間の「木の家」の定義って、まだ土壁だったり床の間だったり、偏りがありますよね。家を作る側が視野を広くしたら、山側が出す木も変わってくるのでしょうね。
【本誌】
ところで、「奈良の木」をアピールする時にあまり他県産材と比べたりしないのはどうしてですか?比べた方がわかりやすいのでは?
【矢島】奈良県地域認証材の強さを機械で数値化して強度を示したりはしますが。木目の細かさや強度の話、手をかけて作った木の話はするけど、他県産材と比べることはしないですね。
【本誌】
あえて言わないのですか?
【矢島】
うーん。奈良に居るので、「奈良の木」を使ったらいいっていう当たり前の気持ち。吉野杉というのはブランドとして把握されているし、もっと大きく言うと「奈良の木」自体がブランド。お客さんもいいものだと理解してくれてるので、わざわざ他県産材と比較する必要ないと思って。
【阪口】
確かに、言っても言わなくても変わらないんじゃないかな。
【矢島】
ただ一ついうなら、奈良で育って家を建てるということは奈良を終の住処にするということ。それなら「奈良の木」を使ったほうが地元に貢献できたと思うでしょ。そこはすっと腑に落ちるみたい。奈良に還るというか。盆地からでもいつも見える山の木が家になるっていう、自然のストーリー。それが循環できたらいいと思う。
【谷畑】
「奈良の木」を、奈良で使うことは風土も気候も一緒だから家にとっても人にとっても良いはずですよね。四六時中、木の香りの中で生活できるなんて本当に清々しい。
【矢島】
「奈良の木」は高価だと懸念されることもあるけど、他県産材を運んでくる費用のことを考えると実は奈良の木のほうが安く入れられることも多い。全てが高価なわけではないし、家全体でバランスを見て適材適所で使えばいいんです。工務店側も値段のことや材の使い方はまだまだ勉強不足。
【谷畑】
奈良県は土地も広いし融通も利いて50坪ぐらいの家が建てやすいので、今まで大手住宅メーカーのシェアが多かったんですね。でも逆に考えると家を建てる需要はある土地なので、これからのお客さんが地元工務店と組んで家を建てる伸びしろはすごくあるってことですよね。
【阪口】
製材所は、流通や工務店からの仕事を待つ立場だけど、やっぱり待ちぼうけはしんどいし苦手だからやめました。それなら仕事の取れる仕組みを作るために思い切ってこのモデルハウスを武器にしたら、木を使ってもらえることも増えた。すぐ他力本願になりがちですが、やっぱり自力でいかないとね。
【矢島】
今、お客さんのニーズが「上質な空間」とか「心地いい空間」というところに来ています。工務店やリフォーム屋さんが流通の出口になるので、「奈良の木」を使う良さをきちんとお客さんに伝えていかねばと思う。お客さんに実感して認めてもらって、「奈良の木」で家を建ててもらうことにつなげていきたいですね。
【吉野】
これから、僕ら山側も集材方法の工夫をしていかないとと思います。後継者問題もあるので、市場でも作業班を作って山の仕事に携わる人を育てていくこともしてます。勉強してちょっとでもコストを下げて、住宅に使いやすい樹齢の杉が適価で売れるような形にもっていけるともっと山から木が出せるし、何より多くの人に「奈良の木」を味わってもらえますもんね。
【谷畑】
うちでは、ひと月でプレカット約30棟のうち、奈良県産材は1〜2棟というレベルだからまだまだ利用できていない状態です。集成材だけでなく、もっと「奈良の木」の無垢材を使えるように流通として工務店さんにアピールしていきたいと思います。
【阪口】
やっぱり、気持ちいい家、深呼吸できるような家を勧めたいなと僕は思うんです。僕は製材所という立ち位置なので、山から伐り出した木を製材することで香りを感じることができる。それをきちんと住まいまで届けていきたいと思っています。
【森田】
林業会社に入って25年以上。入った当時は春になったら山に行って植林してたけど、平成に入ってから植林の仕事がなくなってしまいました。これまでの長い歴史でずっと植林されて樹齢250〜270年の木が残る中で、今の時代に植える木がないというのはやはりいびつです。空白の数十年を取り戻すことはできませんが、少しでも早く、杉や桧をまた山に植えられる時代が来てほしい。皆で協力して、ね。
【本誌】
つながりを意識したり歯車が噛み合うことが、うまく進んでいくきっかけになるという気がします。家族が共に暮らす住まいには、単純にお金では換算できない、住む土地への愛情やストーリー性が大切になると感じました。皆さん、本日はありがとうございました。