奈良の木座談会

「奈良の木」が住まいになるまで

心地よい木の住まい。ひとことに「木の家」と言えど、どのように育った木がどんな加工を経て家づくりの材となるのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。山から伐り出された「奈良の木」がどのように扱われていくのか。山、市場、製材所、流通、工務店と木に関わる業種を訪ねてお聞きした「奈良の木」への想いをお伝えします。

※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。

  • 山
  • 市場
  • 製材所
  • 流通
  • 工務店
  • 奈良の木座談会
  • 森田剛さん

    「山」

    北村林業株式会社 山林部長
    森田剛さん
    1964年生まれ。1988年北村林業株式会社へ入社して以来、吉野の山に入り木を見つめ、丁寧な山仕事を続けてきた山のエキスパート。

  • 吉野俊哉さん

    「市場」

    奈良県銘木協同組合 原木部課長
    吉野俊哉さん
    1966年生まれ。1990年奈良県銘木協同組合へ。現在は原木部で営業や市場を担当。時には山の現場で相談を受ける、頼れる存在。

  • 阪口勝行さん

    「製材所」

    阪口製材所 専務
    阪口勝行さん
    1974年奈良生まれ。2000年に阪口製材所へ入社。製品評価を直接感じたいと考え、住まい手の顔が見えるポジションで製材に取り組む。

  • 谷畑勝三さん

    「流通」

    株式会社奈良木建 代表取締役
    谷畑勝三さん
    1963年生まれ。2014年株式会社奈良木建の代表取締役に就任。オール奈良県産材住宅の実現に向け「奈良の木」の普及に努める。

  • 矢島一さん

    「工務店」

    株式会社スペースマイン 代表取締役社長
    矢島一さん
    1973年生まれ。親子二代にわたり変わらぬ信念で工務店を営む。人と自然がともに生きる健康な家づくりで地産地消を実現している。

「奈良県では木へかける手間がすごい。その価値がもっと知られても良いと思う。」 – 吉野

【本誌】
「奈良の木」に深く関わる業種の方々にお集まりいただきました。皆さん顔を合わせるのは?

【谷畑】
皆、木に関わっている仕事と言えど、初めての方もいらっしゃいますね。

【本誌】
では今日は交流も兼ねて「奈良の木」のことをざっくばらんにお話いただければと。早速ですが「奈良の木」というのはやはり全国的な知名度や価値があるんでしょうか?

【吉野】
うん、全国的にも名が通ってますね。やはり奈良県内では木にかける手間がすごい。そのあたりの価値がもっと知られても良いと思います。

【森田】
特に吉野林業は1町歩(約1万㎡)に10000本という木を植えた中から、300~500本に選別した究極に良い木が市場に出てます。樹齢100年のものでね。究極の贅沢品なのに、他の地域の材と価格が狭まってきてしまってる。

【阪口】
昔のいい時代みたいに高く売れることはないと思うけど、少なくとも樹齢30年の木と100年の木と一緒ではおかしい。今すぐ立ち行かなくなることはなくても、後世のことを思うと今のうちに手を打っておかないとだめですね。

【吉野】
あまり手入れしていない地域の材と価格の差がなくなってしまって、逆にものすごくお買い得になってしまって。昔はもっと価値を感じてもらってたと思うんですけど。「奈良の木」は年輪も密だし、油分ものっているし。

【本誌】
手をかけているけどなかなか伝わっていないもどかしさがあるんですね。矢島さんは工務店なので、この中では一番エンドユーザーに近いですよね。

【矢島】
うちは十津川村の木を使った「産直住宅」に取り組んでいるので、お客さんと話すときは、基本的には「奈良の木」ありきで家を作る話をさせてもらってます。実際にお客さんに山に入ってもらい木を選んでもらうことで、時間はかかるけれど家づくりのストーリーができる。お客さんも地域貢献することで「奈良の木」で建てて良かったという気持ちになってくださるし。僕はそういう部分で「奈良の木」を使う良さを伝えてます。

【谷畑】
ほう。うちは県内だけでなく県外へも営業してますけど、「奈良の木」に正直ピンときていない得意先もあって。もちろん「奈良の木」を大切に思っている工務店さんも多いけれど、なか なか良さをお施主さんに伝えきれてないところも多いように感じるなぁ。奈良県の工務店さんは自分で選んできた木を使いたいというところもあるので、うちは持ち込み加工OKにすることで、「奈良の木」を推進しています。

【矢島】
奈良県内には工務店が600社以上あるので、工務店がもっとお客さんに「奈良の木」を語れるようになればもっと伝わるんですよね。年間実績2〜3棟の工務店であっても、その材を「奈良の木」に変えるだけでかなり木を使う量が増えます。そうやって、ちょっとでも山側にお金を還していけたらと思って。

【本誌】
工務店さん自身ももっと奈良の木の良さを知ってもらわねばというところがあるんでしょうか。

「持ち込み材も歓迎する奈良県産材をつなぐ取り組み」

【矢島】
そうですね。ここ数年で「奈良の木」の使用を意識しだしたところは、元々は外国産材でローコスト住宅を扱っていたところが多いのでは。かつては「奈良の木」の良さが伝わらないままに価格競争に陥ってしまっていて。最近はローコスト住宅に負けてた工務店が本当の家づくりをしようとしているので、これからは総数として増えてくると思うのですが。

【阪口】
エンドユーザー相手だと、一番価格競争に陥りやすいんですよね。

【矢島】
そうなると価格で合わせるのか、家の価値を上げていくのかというところですけど、結局は「家ってそういうものじゃないでしょ?」ってことをお客さんに知ってもらうしか生き残る道はないんじゃないかと思って。こういう家づくりにお客さんが価値を見出してくれるように。それに気づいてきてる工務店が多くなってきてると思います。ローコスト住宅と価格では張り合えないことに。

【吉野】
普段市場にくるのは製材所や木材屋さんなので、うちは工務店さんとはつながりはほとんどなくて。そこから先のことはあまりわからないけど話は聞こえてこないわけではない。矢島さんは十津川村の森林組合と組んでやっていますが、十津川は上手にコストのかけ方を考えて山から木を出してますね。吉野の方ではヘリコプター(以降、ヘリという)集材にコストがかかってしまって。林道や架線が使えたらコストを抑えて集材できるからもっと吉野材を出せるのに、今では山に木が残ってしまってる状態です。

【森田】
木の売値よりも、ヘリを飛ばして木を下ろすのにかかる費用が高くついてしまって。

【本誌】
手をかけて育てたのに、本末転倒ですね。

【森田】
でも、山側の人間が贅沢な木にあぐらをかいてきたところがあるかもしれない。昔は吉野では簡単にヘリを使える状態がずっと続いてきたから、集材について考えたりしてこなかった。他の地域では、林道や架線を利用するなど木の出しかたを工夫されていたのですが。

【矢島】
吉野地域は架線集材は難しいのですか?

【森田】
昔はやっていたのですが、今はその技術を持った人がどんどんいなくなって今は代替わりしてしまって。ここ30年はヘリ集材なので元に戻すのはなかなか難しくて。

「山から伐り出した木を製材していて感じる香り。それを住まいまで届けていきたい。」 – 阪口

【谷畑】
林道や山の整備に補助金が出るという話もあったかと思いますが。

【森田】
そういう動きはありますね。架線集材や林道もつけ方を工夫しています。ただ、吉野は一つの山に多くの所有者がいるなど整備が難しかったりするんです。大きい山林家なら、自分の山の中で道をつけることはできるかもしれませんが。

【矢島】
山から木を出すのに費用がかかってしまうと当然木の価格は上がっていきますよね。北村林業さんは大きな木を出していらっしゃるとは思いますが、あれは高く買ってくれるところに売ったら採算は合うのですか?関東より北の方が家にかける費用も高かったりもしますし。

【吉野】
北村林業さんとこの銘木は全国から欲しがられて買いに来られますが、奈良県の人が買うのは半分以下かも。

【森田】
銘木はそれなりに高く売れますが、一般的な建築に使われる木はそうもいきません。銘木は寺社仏閣などには需要があるのですが。

【阪口】
それぞれの事情がありますよね。皆伐できるようなところは架線を引いても利益はありますが、吉野の間伐林業でポツポツ伐るならば、ヘリで吊って下ろす方が周りの木も山も痛まないんです。だからヘリっていうのは全部悪ではないけど、価格が上がってしまう点では良くない。それに代わるものを考えてこなかったツケが今きてるのは確かですね。僕は製材所なんで、山の話も聞くし工務店の話も聞いて中間の役割で今まできましたが、ある時、町に出て声を聞くことにしてみました。工務店ときちんとつながれば木が使ってもらえると思って。

【森田】
山はなかなか、そういうことはしないですね。

【阪口】
そう、山は普段は直接木を売る市場しか接点がありませんが、これからはさらに先で木をどう使われるかを考えて繋がっていくのも必要かなって。だから、意識改革の意味では今日の会はいい機会!

【森田】
奈良人はわりと内向的ですもんね(笑)

【谷畑】
よく聞きますけど、変わっていかないとね(笑)

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