「奈良の木」が住まいになるまで
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。
阪口製材所
市場から仕入れられた原木は、製材所で木材へと加工されます。「奈良の木」の丸太がその優良な特徴を生かし、どのように木材に仕上げられていくのか。吉野町で70年の歴史を持つ製材業者『阪口製材所』を訪ねました。同社では「喜んでもらえる木材」を提供すべく、徹底した品質管理にこだわり製材業を営んでいます。同社専務の阪口勝行さんに製材の基本的な流れについてお聞きしました。
【皮ハギ】まずは市場から持ってきた丸太の樹皮を剥きます。山で木を倒した時についた細かな石。そのまま製材を行うと製材機の刃を痛めてしまうそう。リングバーカーという機械でバリバリと樹皮が剥かれます。
【一次製材】まず、仕上がり寸法よりも少し大きめにカットすることを一次製材といいます。この後、材を乾燥させることで木材に歪みが出たりサイズ変化があるのでこの時点ではまだ正確なサイズには仕上げません。
桟積み・乾燥】水分を多く含んだ瑞々しい木の強度を保ち、割れや反りなどを防ぐために木材を乾燥させます。一般的には重油を燃焼させた乾燥炉内で、3〜20日かけて木材を「人工乾燥」させます。人工乾燥は短時間で木を乾燥させるため、多少なりとも木にストレスがかかりますが、木が我慢できるぎりぎりの範囲で乾燥させるのだといいます。『阪口製材所』では、木の良さを生かすために敢えて手間のかかる「天然乾燥」も行なっており、木材を桟積みした状態で1年半〜2年かけて自然に乾燥させているのだそうです。(天然乾燥については次ページ)
【選り出し】木材の注文があれば、お客さんがどういう目的で使いたい木なのかをよくヒアリングし、乾燥した木材の中から適した材を選びます。
【二次製材】注文に合わせて、十分に乾燥した木材を正確なサイズへ加工します。その後精密性の求められる仕上げ作業を行います。
【出荷】製品である木材をトラックに積み込み、お客さまの待つ現場に出荷します。 「昔は、製材所から木を生で出していました。今は製材所が細かな仕上げ加工までやることが多いですよ。」と阪口さん。元々は住宅に使う木材は現場で大工さんが仕上げるものでしたが、時代の流れで新建材を使う家が増えてしまった現在では大工や建具屋の仕事も減ってきてしまい、製材所が最終加工をすることが多くなったのだといいます。
市場で木を仕入れる時には、木が真っ直ぐかどうか、小口の色あい、木材の強度にもつながる木目の細かさなどをチェックするといいます。「つまり、喜んでもらえる木がどんなものかを考えるんです。いい原木はみんな欲しがりますね。」と阪口さん。もちろん市場では売れ残る木もありますが、阪口さんはできるだけそれも買うようにしているのだそうです。それは、売れ残ることが山を苦しめることになるから。製材所としての立場だけでなく山にとっての観点も忘れずに、部分最適ではなく全体最適を目指しているといいます。木をどう売るか、木の行き場=生き場を考えるのも自分の仕事だと考えています。
その意識で『阪口製材所』が取り組んでいるのが「一棟まるごと提供」です。これは、1本の木を余すことなく利用しながら、住宅一棟分全ての木材を納めるというもの。「木の太い部分、細い部分それぞれに利用方法があり、その全てをうまく使えば家が建ち、木の価値を高められる」というのです。奈良の木とはいえ、銘木ばかりではありません。人の都合で「いいとこ取り」をしていては山は生きられない。木を余さず使い切り無駄を出さないことは、コストダウンにもつながります。
もう一つは、先に出た「天然乾燥木材」。山から切り出され水分を含んだ瑞々しい材木の強度を保ちながら、割れや反り、シロアリやカビを防ぐためには乾燥が必要です。乾燥炉に2〜3週間置く人工乾燥に対して、化石燃料を使わない自然乾燥は最低でも1年。手間やコストはかかるものの、木が本来持っている色艶や粘り強さがあり、何より住まう人に優しい木になるといいます。それこそが住み手が本当に求める木材だと、阪口さんは天然乾燥へのこだわりを強く持っているのです。
「一棟丸ごと提供」と「天然乾燥」のため、同社では常時100棟分以上の木材を保有しています。これは、管理の手間や場所など負担も大きく業界の常識としては考えられないことですが、一定の乾燥品質を保った木材をいつでも届けられる即時納入体制こそ、ニーズに応えられる方法だと胸を張ります。在庫を持つことはリスクでもあるが、家を建てるときに肝心の材がなければ話にならない。「良いものをすぐに提供することが自分たちの義務」だと、阪口さんは話します。
阪口さんは、木の本来の性質を伝えることも大切にしています。木は割れる、曲がる、狂う、腐る。そんな木の短所と言われる性質を木材のプロとして説明し、同時に木の良さも感じてもらう。節を見せたくない部分では綺麗な材を使い、節があっても気にならないような家の見えない部分には節のある材を使用して材を余らせません。単に安いというのではなく、価格以上の値打ちの木材をできるだけ安く提供できるように手を尽くしています。同社の製造方法や品質管理の考え方は決して新しいものではなく、木を育て山づくりに励んだ先人や、厳しい自然と対峙しながら育ってきた木々の尊厳を大切にしてきた昔に戻っただけ。自分たちの都合だけで商売するのではないことを忘れてはいないのです。
また、製材所としては非常に珍しい取り組みとして、吉野の自社敷地内にモデルハウスを建て開放しているという同社。「奈良の木」をふんだんに使用し、木の風合いや香りまでをも体感できるこちらのモデルハウスでは、木を身近に感じ、木のある暮らしをイメージする大切なツールになっています。家を建てるエンドユーザーだけでなく、建築事務所や工務店にも「奈良の木」の良さを伝えていきたいと考え、山を想う製材所としてさまざまな挑戦をしています。