目利き達に見初められる丸太がずらり、原木市

「奈良の木」が住まいになるまで

心地よい木の住まい。ひとことに「木の家」と言えど、どのように育った木がどんな加工を経て家づくりの材となるのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。山から伐り出された「奈良の木」がどのように扱われていくのか。山、市場、製材所、流通、工務店と木に関わる業種を訪ねてお聞きした「奈良の木」への想いをお伝えします。

※当ページは、2015年12月25日発売の雑誌【「奈良の木」BOOK】掲載のデータです。

  • 山
  • 市場
  • 製材所
  • 流通
  • 工務店
  • 奈良の木座談会

市場

奈良県銘木協同組合

「育ちの良い銘木を求めて多くの人々が集う原木市」

 カランカランカラン!—朝9時。鐘が高らかに鳴り響き場内アナウンスが流れると、原木の値踏みをしていた人々、仲間と談笑していた人々がゆっくりと一箇所に集まりはじめます。ずらりと原木が並ぶ中、賑やかな原木市のスタートです。
 こちらは、『奈良県銘木協同組合』。この日は毎月開催されている原木市の日で、山から伐り出された原木が競りの方式で売りに出されます。奈良県下ではいくつかの木材市場があり、規模の大小はあれど毎月それぞれに原木市を開催しています。市場によって扱う木はさまざまで、大木がよく出る市場、細い木を売るのが上手な市場など、それぞれに特徴がありますが、こちらの市場は特に銘木専門とあって住宅だけでなく寺社仏閣や文化財に使われるような質の高い木がたくさん出ることで有名。育ちの良い吉野杉・吉野桧を求めて、奈良県内だけでなく全国の製材所や木材屋さんが遠方よりはるばる買い付けに訪れるといいます。また、奈良の原木だけではなく北は秋田から南は九州まで、全国各地の山から木が集まるのも特徴だそうです。
 こちらでは年間通して月1回原木市を行っていますが、原木が多く出回る秋から冬にかけては月2回の開催があり多くの人々で賑わいます。夏場の原木が少ないのは夏に木を切ると水分が多く虫がでやすいから。野菜に旬があるように、原木にとっても最適な季節があるのです。

「良い材を求めて繰り広げられる白熱の競り、原木市」

 「市の前日には、クレーンを使って原木をずらりと並べます。あらかじめいくらで売るか見積って帳面に記しておくんですよ」と原木部課長の吉野俊哉さん。吉野さんは、市では木の上に乗って市を仕切りすすめる「振り子」を担当しています。吉野さんの掛け声で競りがスタートすると、原木の周りに集まった「買い方」と呼ばれる製材所や材木屋は、木をいくらで買いたいかを指数字で伝えます。材の値段は立米単価でやりとりされます。(立米単価とは木材の体積1㎥あたりの金額のこと)つまり、原木の体積×金額が、買い方の頭の中で直感的にイメージされているのだというから驚きです。振り子と複数人の買い方との駆け引きの末、原木が競り落とされた瞬間、「カラン!」と鐘の音。競りがトントン拍子に進む様子は何とも圧巻で、振り子の口から独特のリズムで発される競りの言い回しは休みなく延々と続いていきます。
 滞りなくスムーズに進んでいく市には、職員たちの絶妙な役割分担が必要不可欠。「2号!」と声を張る係。「号」というのは木の椪列番号のことで、その集まりに並んでいる木の競りだという掛け声です。買い方の後方、振り子から良く見える位置で大きく指文字を示すのは、前もって見積った金額を振り子に提示する係。振り子はその見積もり金額をさっと確認し、「3万からー!」と買い方に示します。競り落とされた値段と買い方番号を木に書く係、帳簿に記す係など、同時に4〜5人の職員が役割分担することで、スムーズな市が可能になるのです。

「奈良の木の魅力を伝え木を売ることで山に還す」

 今まで日本全国のさまざまな銘木を扱ってきた目利きの吉野さんに、奈良の木について聞いてみました。奈良の桧は油分が多く含まれるため艶があり、色は淡いピンク色で、強くて耐久性があるのだそうです。また、成長過程で丁寧に枝打ちされているので節が出ず、他県の材と比べても群を抜いて質が良いといいます。「木の切り口、小口をみれば枝打ちの跡が数多く、その木がいかに丁寧な仕事をされてきたかがわかる。」と吉野さん。特に吉野林業では枝打ちが必須作業だ]ったので、奈良県の枝打ちの技術はとても発達しているのだそうです。また杉に関しては、赤みを帯びたものが良いとされていますが、奈良の杉はその色味色艶も申し分なく、目あいも美しいのだそう。年輪が均等かつ密で芯が詰まっている杉が多いのがやはり奈良の杉の特徴だといいます。丁寧に時間をかけて育てられた上質な奈良の木が、全国的に評価されるのも納得です。この日の原木市に富山県から原木の買い付けに来ていた木材屋さんは、「奈良の山は密に木が植えられていても枝打ちがきちんとされているから、木の根元に太陽の光が当たっているのが見える。山をひと目見ただけでその仕事の丁寧さがわかり、本当に頭が下がる。」と嬉しそうに話してくれました。
 奈良県銘木協同組合では、原木市だけでなく月に一度製品市も開催されます。原木市で製材所に売られた木が、製材加工されてまたこの製品市に戻って売りに出されるのだといいます。製品とは、建材につかわれる磨き丸太や、天板、建具、突き板に使われるフリッチという半製品など、その種類はさまざま。変わり種の木である「自然木」なども出されており、店舗や住宅のアクセントにも需要があるのだそうです。
 世の中の流れ、情勢とともに木の価格は常に変動していきます。なかなか安定しない時価のような世界で、海外の材の影響を受けたり、家を建てることが減ってきたという需要の問題からも目をそらせません。「木を売ることで山に還していく気持ちでやってきた。林業家さん達が安心して木を提供できるような流れを作りたい。」奈良の木の魅力を知る吉野さんの、強く確かな想いです。

File.3 「製材所」

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